硤合憲三氏は何を発見?2026年ノーベル化学賞「不斉自己触媒」をやさしく解説

科学・ニュース解説|情報確認:2026年10月8日|編集:鈴掛|具体例・操作例を追記:2026年10月12日

硤合憲三(そあい・けんそう)氏が発見したのは、できあがった分子が次の同じ分子をつくる働きをし、分子の「右手型・左手型」のわずかな偏りまで大きくなる反応です。「不斉自己触媒反応」と呼ばれ、生命をつくる分子がなぜ片方の型にそろっているのか、という疑問につながります。

2026年10月7日、硤合氏とアンリ・カガン氏のノーベル化学賞受賞が発表されました。受賞理由は、不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見。ニュースの難しい言葉を、「分子の形」「増える仕組み」「生命との関係」の順にほどいてみます。出典:フランス科学アカデミーの発表

まず、分子の「右手型・左手型」とは?

右手と左手を思い浮かべてください。指の数や並び方は対応していますが、両方の手のひらを同じ向きにして重ねても、親指の位置は一致しません。

分子にも、鏡に映したような関係なのに、回転させてもぴったり重ならない組があります。この性質を「キラリティー」、そのような分子を「キラル分子」と呼びます。「右手型・左手型」は形の違いを理解するためのたとえで、分子に本当に手があるわけではありません。

しかも、体の中での働きは両者で違うことがあります。同じ材料からできていても、立体的な配置を区別する必要がある。そのため、医薬品などの分子をつくる化学でも重要な性質です。出典:英国王立化学会の解説

「不斉自己触媒」を3つに分けると分かりやすい

言葉この記事で押さえる意味
不斉(ふせい)分子の右手型・左手型のような、鏡像と重ならない性質に関わること
自己触媒反応でできた物質自身が、同じ物質をつくる反応を促すこと
不斉増幅右手型と左手型の割合の偏りが、さらに大きくなること

硤合反応では、生成物が増えるだけでなく、鏡像のどちらか一方への偏りも増幅されます。東京理科大学は、硤合氏が生成物そのものを触媒とする不斉自己触媒反応を世界で初めて発見したと説明しています。出典:東京理科大学の受賞発表

すごいのは「数が増える」と「割合が偏る」が一緒に起きること

違いをつかむため、右手型51個・左手型49個という説明用の仮の例で考えます。

両方を同じ倍率で増やしただけなら、510個と490個になっても割合は51対49のままです。分子の総数が増えても、片方への偏りは強くなっていません。

これに対して、不斉増幅では片方が占める割合も高くなります。硤合反応の特徴は、自己触媒の働きとこの増幅が結び付いている点です。日本学士院は、不斉を見分ける働き、自己触媒の働き、不斉を増幅する働きの3つを備えることを挙げています。出典:日本学士院の授賞理由・用語解説

上の51対49は仕組みを比較するために置いた数字で、実験結果ではありません。また、分子が材料なしに無限に増えるという意味でもありません。

数字で確かめる:「個数の差」と「割合の偏り」は別

前の51対49の例を、もう一段だけ計算してみます。ここでは(多い方−少ない方)÷合計×100で偏りを比べます。表は理解用に置いた仮の数字で、硤合反応の実験データや反応速度の予測ではありません。

説明用の状態右手型/左手型個数の差合計に対する差
最初の例51/4922%
両方を10倍にしただけ510/490202%
割合も偏った仮の例900/10080080%

2行目は差が2個から20個へ増えていますが、全体も10倍なので偏りは2%のままです。したがって「右と左の差が増えた」という文章だけでは、不斉増幅を説明したことになりません。3行目のように、全体に占める割合の変化まで見る必要があります。

また、3行目の数字だけから自己触媒かどうかは判断できません。割合の変化を見ることと、生成物自身が次の生成を促す仕組みを確かめることは別の確認です。この2点を分けると、ニュースの「増える」「偏る」「自分で促す」を混同しにくくなります。用語の確認先:日本学士院の授賞理由・用語解説。

生命の起源と、どうつながる?

生命を構成する分子には、鏡像の片側にそろう性質があります。例えば、タンパク質を構成するキラルなアミノ酸は基本的にL型です。このような片側へのそろい方を「ホモキラリティー」と呼びます。

では、初めから大きな差がなかったとして、どうすれば片方にそろうのでしょうか。小さな偏りを化学反応が大きくできるなら、その成立を考える手掛かりになります。硤合氏の研究は、この問いに実験から取り組んだものです。出典:日本学士院「ホモキラリティーの成立起源に関する研究」

ただし、生命が誕生した全過程を再現した、という意味ではありません。英国王立化学会が紹介する硤合氏の説明でも、起源の理解にはさらに研究が必要だとされています。分子の片側への偏りを説明できる反応と、太古の地球で実際に起きた出来事の特定は、分けて読む必要があります。

ニュースを読むときの疑問に答える

硤合憲三氏の名前は、どう読む?

「そあい・けんそう」です。東京理科大学の受賞発表に、読み方と経歴が掲載されています。

カガン氏も同じ反応を発見したの?

二人の成果は同一ではありません。英国王立化学会の説明では、カガン氏は鏡像の一方を予想以上に多くつくる反応の研究、硤合氏は不斉自己触媒の研究を進めました。今回の受賞理由には「非線形効果」と「自己触媒作用」の両方が含まれています。

今すぐ新しい薬ができるというニュース?

今回の受賞発表は、新薬の発売や承認の発表ではありません。分子の立体的な違いを理解し、つくり分けるための基礎研究が評価されたニュースとして読むと、意義を捉えやすくなります。

大学・学会などの公開資料を基にした解説です。独自取材や実験を行った記事ではありません。受賞情報は2026年10月8日時点で確認しています。


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